東日本大震災の津波による宮城県名取市閖上地区の犠牲をめぐる訴訟の口頭弁論が28日、仙台地裁であり、遺族側が一般社団法人「減災・復興支援機構」(東京)の木村拓郎理事長を呼び出し、対面で尋問するよう地裁に要請した。機構が同地区の被災状況を調べた第三者検証委員会の基礎資料を廃棄した問題を受け、書面での尋問には限界があると判断した。
 民事訴訟法は訴訟に参加していない第三者に文書の提出を命じる際、尋問が必要と規定。地裁は通例に従い、3度の尋問を全て書面で行い、機構は「昨年5月中旬ごろ、理事長の判断で廃棄した。紙資料は裁断し、記録媒体は粉砕した」と回答していた。
 遺族側は機構が廃棄する3カ月前の昨年2月、任意で開示を要望。さらに5月下旬、地裁を通じて提出を求める手続きをしていた。
 遺族側は、裁判所が資料提出を機構に命じる可能性が浮上したことを受け、機構が廃棄した可能性があるとして、廃棄時期や意思決定の経緯を疑問視。「理事長を地裁に呼び、証人尋問に準じる尋問が必要だ」と要請した。
 長男=当時8カ月=を失った40代の女性は、同日の意見陳述で「減災に取り組む機構の理事長が後世に残すべき資料を廃棄したことが分かり、今後の防災・減災に絶望せざるを得ない」と指摘した。
 基礎資料には市災害対策本部の対応や防災無線の不具合に関する佐々木一十郎市長らへの聴取記録が含まれていたとみられる。